津留崎直紀  violoncelliste の

チェロ基礎練習法

 

 

 

 

 

 

チェロ基礎練習法

1. 15分のチェロ座禅


2. 音程について

3.左手と弓について

4. 左肘の高さについて

5.音階練習 1

6、音階練習 2、 単音3度音階

7.二重音音階


8 . 重音三度

9.重音6度

10. オクターヴ

11. アルページョ




 2010年11月から 新連載
オーケストラ エクササイズ

作品目録 

編曲作品目録


CD バッハ無伴奏チェロ組曲

音楽随筆

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もくじ

 

表紙

 


8.重音3度音階

 

長3度は小さく、短3度は大きく

 3度と6度は2、音程 でふれた理論値で行うことを勧める。人によっては違和感を覚えるかもしれないがこの純粋な響きを覚えておくことは重要であると思う。アンサンブルや室内楽でも響きの純度を上げるのに役立つ。ある程度以上の水準で合唱をやったことのある人はこのひびきを経験的に知っている人が多いと思う。特にアカペラでは完全5度、完全4度、長3度はお互いの声帯に共鳴しあうので(だと思う)肉体的な記憶になるのだと思う。5対4の純粋な長3度は以前にも触れたように開放弦から長3度の位置にあるハーモニック音がそれに当たる。このハーモニックが出る位置は12平均率のHよりやや低いところにあり、その位置が5対4の3度のある位置である。下の譜例のようにC線でGを取り、G線Hの位置のハーモニックと二重音を弾いてみると響きがよく分かるはずである。  

     

  G-Hの長3度が小さいので必然的にH-Dの短3度は大きめである。

 

 この例ではHがチューナーで確かめると約15セント低い音になる。(セントは1オクターブを1200等分した値。一半音が100セントになる)必然的にH-Dはやや広めになり、短3度はよって広いほうがきれいに響くという結論になる。この3音和音も試してみるとよい。

 しかしそこで生じる問題もたくさんある。主な問題は開放弦を3度音に持つフラット系の調である。

                 または       

のような場合である。この場合Dを基準にしたときB(ドイツ音名)は約15セント高くとらないと純粋な響きにならない。よってこれらの調(F、 B、Es、As)は主音を高くとるかまたは開放弦を約15セント低めにするかの選択が必要になってくる。ここで短6度も例に挙げたのは、言うまでも無く短6度は長3度の転回形なので同じ原理で広めになるのである。この場合オクターブは常に1対2が前提である。このB(Es, F、も同じく)の指板上の位置は12平均率のB とはっきりと位置が違う。計ってみたわけではないが感覚的には1ミリ程度違いがあるような気がする。僕はバッハを弾く時にはDを中心に下2弦はやや小さい5度で、Aは完全な5度で調弦する。こうすると特に第4番は響きが格段に違う。カルテットでもこの小さい5度であわせると濁りが少なめになる。チェロとヴィオラのCとヴァイオリンのEが出来るだけ5対4の純粋な3度に近くなるようにあわせるのである。オーケストラでも下2弦はやや高めにあわせておいたほうがCの開放弦が低すぎることを避けることが出来る。

 3度音階 (6度、オクターブも)のフィンガリングはシステムとしては単純である。ネックポジションでは常にのみで他の指は使わない。親指は調によって異なるが第4ポジションあたりから使い、2、13 の組み合わせを交互に使う。 P. Tourtelier は著書でネックポジションでも親指を使うことを勧めているが、ここでは触れない。

         

 3度音階も各長短調すべてで行う。かぎカッコの高音部分は初心者には必要ないかもしれない。上級者は大体どの調でもE6からG6くらいを最高音として練習しておくとよい。このあたりの最高音域での3度は音がかなり不安定になる。一音8秒はちょっと困難なので、弓の速度を上げて軽い弓で音を出すようにすると上手く行く。

3度音階でエックステンションと4度も習得する

  ネックポジションで長3度から短3度へ移るのは難しい。 は半音 は全音の動きなので、上級者でもなかなか上手く行かないことが多い。下の譜例はこの問題を解決するためのエクササイズである。

           

 タイ で繋げた同音は難しい時は切ってもかまわない。短3度の指の形はExtension(拡張。今後はExと略す)である。ただ漠然と1-4 を広げて短3度をとらず、譜例のようにまず1-2 を広げて完全4度をとる。低いポジションでは手の硬い人にはいいストレッチになる。この時完全4度のきれいな濁りの無い響きも耳と指に覚えさせる。4度が決まったら3、4 を半音間隔に置けば短3度のきれいな指の形と正しい音程が取れる。単音3度音階の時にも少し触れたが、1-4 の時 と は弦の上に置く。上がっていると左手に負担がかかるばかりか音程が不安定になる。この時たとえば上の譜例2小節目では1-2-4 はEs-F-GのEx の正しい音程関係が指に出来ている。(厳密に数学的に言うとG-Bは三角形の長辺、Es-Gは短辺なので距離が違うと言う人もいるが)

下行の場合も同じような原理でシフトを行うことが出来る。

 開放弦を使った二重音から次に移る場合は以下のように行うとわかりやすい。

 この譜例の場合では第1ポジションの を第3ポジションの1へスライドさせると同時に離した をEx.でG線上のDに置き換える。初めのうち難しいときは必ずしも両音が同時でなくてもかまわない。Gを先に弾いてからDをとってみる。このとき少なくとも は弦から離れないように注意する。 も訓練すれば斜め横断をほとんど弦から指を離さずできるようになる。原則として弦から指が完全に離れる事は必要がない限り避けるのが基本である。 上行して開放弦を使った3度は1-4から2-0 又は3-0 なので問題が少ない。  ネックポジションの3度音階はふたつの意味で左手の訓練に重要である。そのひとつは上に述べたExの正しいきれいな形を覚えるためであるが、ふたつ目は と の耐久力と強さを訓練するためだ。 または が隣の弦に触れないでしっかりとしたアーチを作れるようになる訓練でもある。すべての指は原則的に単音でも重音でも指先の爪の近くで、隣の弦に触れないように押える。

親指のポジション

 親指は握り締める方向にはかなり強い力を持っているが、反対方向には意外に弱い。左親指を右人差し指で上からと下から押してみると良く分かる。親指のポジションで求められるのは下から押した時の筋肉である。この筋肉は使っていないとすぐ衰えてくる。これを経験的に知っている人は多いと思う。だから、親指をあまり使わない曲を練習している時でも音階練習で日ごろから衰えないようにトレーニングしておくのが良い。親指ポジションでは同一ポジションでふたつの重音がある。それぞれの音程関係(水平位置的に半音か全音か、垂直位置的に重音の音程関係が長か短か)をあらかじめはっきりと分かっていなければならない。

シフティングは親指のシフトが基本
  1-3 の重音から ー 2 へのシフトは時になかなか難しい。短調では増2度進行が出てくるので少し厄介である。上行のシフトでは次の親指の位置は今いるポジション内にある。譜例の場合F-Asの次のHは2の位置にあるので2を親指に置き換える(substitution)動作を考えると分かりやすい。

           


上手くゆかない場合は以下のシフト練習をしてみると良い。ただしこれは親指をスライドして行う。尺取虫式に2と親指の間隔を縮めて行ってはいけない。
             

長調の場合でも原理は同じである。

           

下行シフト
 下行の場合はポジション内に基準の音が無いので少し難しい。
上行も下行も親指のポジションから見れば3度進行であることを考えると分かりやすい。譜例では親指がまずHからGに移る動作を考え、位置が定まった次点でFとAsをとると考えればよい。

         

音を指板上の絶対位置で覚える


 最終的には重音に限らず各音の絶対的位置を個々に覚えるのが一番良い方法である。初心者でも第一ポジションや第4ポジションの音は目をつぶってもある程度取れる。上級になれば例えば開放弦からオクターブ上の親指の位置はストラテジックな音で、比較的覚えやすい音だ。他にもそういうよく知っている音があるはずだ。これはその位置を体が記憶しているからである。 そういう音をどんどん増やすように練習するのである。例えばA線のGis4は4では覚えやすい音のひとつだが、1では結構難しい。こういった音を積極的におぼえるようにするのである。優れたピアニストは88鍵の音を目をつぶっていてもたいていの音は取れるものだ。チェロの指板はたかだか長さ50センチ巾6センチ程度のものである。弦楽器の場合同一音が複数の弦にわたってあるし、鍵盤のような目印も無いので同じようには論議できないが、少なくともそういう方向で音を覚えるようにすることを勧める。音符を頭にイメージし同時に音そのものを内的耳で先取りして聞くことが出来れば次第にそれらの位置に手が行くようになる。